この記事は、ライブ配信 Advent Calendar 2020 の23日目の記事です。
ムーサ・エンタープライズの加登です。
私はこれまで、イベントやコンサートの音響や録音が主な業務であったわけですが、2020年はコロナのおかげで2月後半からは例年のイベントやコンサートは全て中止か延期となりました。私自身がいろいろなことに興味がある性格ということもあり、これまで本当に多岐にわたる分野の音響や録音業務をこなしてきましたので、世の中が少々不景気だとか言われようとも、決して仕事がなくなるなんてことはこれまでに一度もなかったわけです。しかし、今年のコロナは違いました。見事に全ての現場仕事が無くなりました。4月の段階で「うん、今年はもう駄目だ、本業は諦めて配信を始めよう!」と、藁をもつかむ勢いで配信業務を開始したわけです。
といっても実はコロナ禍以前より、ライブ中継を伴う音声現場や、配信の音声を担当する現場もそれなりに担当しておりましたので、配信に関しても、予習程度の知識はもっておりましたので、必要機材もすぐに選定し、割とすぐに始めることができました。
本当はここでは配信機材の音声レベルについて、どのように考えて運用しているのかということについて、私の実践している方法を中心にして詳しく書かせてもらおうと思っておりました。
具体的には、配信機材の音声入力のユニティーレベル測定方法と、音声ミキサーの出力レベルをそこにマッチングさせるためのオリジナルケーブルの設計・製作についての予定だったのですが、そんなマニアックで専門的なことをお伝えするよりも先に、もっと配信の音声について改善すべき大切なことがあるな、と最近特に思うことが多いのでそちらを先に書かせてもらおうと思います。
※もし、音声のレベルマッチについてご関心があるよ方が多いようでしたら、また機会を頂ければご紹介させて頂きたいと思います。
さて、前置きが長くなりましたが、私が、
有料・無料を問わず様々な配信を拝見した上で、最近よく感じるのが、映像にはそれなりにこだわりを持っておられても、実は音には無頓着な方が割と多いということです。
具体例として、クラシックの演奏会等の配信について書かせて頂きます。
演奏者の皆さんは意外とお気楽に配信を考えておられる方が多いのが原因かもしれませんが、私は裏方ですのであえて厳しいことを言わせて頂きますが、「聴かされる側の立場になって考えてみてください」ということです。
観客を入れて演奏会をされる場合は、ホールの響きをかなり気にされている方であっても、配信される場合は音も遠く、ぼやけた印象の音で配信されている方を意外と多くお見受けします。
音がぼやけた印象と書きましたが、多くの場合、マイクロホンが遠いことが原因のように思います。
自分で録音されたことがある人はご存じだと思いますが、たとえホールであっても、客席で響きがよいと感じる場所で録音したものが、必ずしもよい録音にはならないということです。これは「生きた耳」と「死んだ耳」現象と私は呼んでいます。ある空間で音の響きを聞くとき、我々は両耳でその空間の響きを補正しながら聞いています。嘘だと思われる方は一度、今いる空間で片耳をふさいで聞いてみてください。両耳で聞くよりもその空間の響きが多く聞こえることに気が付かれると思います。この片耳で聞いた音に近い状態が録音された音です。つまり、生のコンサート会場では「生きた耳」で聞いていますが、たとえ同じ場所で録音したものであっても録音された音を後から聞くときは「死んだ耳」となっているのです。なぜこの現象が起きるのかということについてはとっても長くなりますので今回は割愛させて頂きます。
さて、配信の話に戻りますが、私が言いたいのは、「我々にご依頼ください」ということではありません。多くの場合、限られた予算内でされていることも承知しております。
また、この位置にこういう風にマイクを立てたら大丈夫です、という明確な答えもありません。我々もその場で響きを実際に聴いてみなければ何も言えません。
何が大切かと言いますと、「実際にライブ配信しようとしている音声を一度聴いてみてください。それは聴いていただくのに堪えうる内容ですか?」ということです。
「なんだ精神論かよ」とか思われるかもしれませんが、録音業務に関していえば、そもそもそこに客観性なんて存在しません。必要なのは主観のみです。あなたがどんな音を届けたいのか、それが最も重要なんです。これは配信に関しても全く同じはずです。少しでいいので、時間を割いて、実際に配信される音声を聞いてみてください。意識が変われば結果は必ず変わります。もっとこうしたいのにという欲求が生まれれば、絶対に次回は今回よりもよくなります。
これは、クラシックの演奏会だけではなく、全てのジャンルに共通して言えます。
ロックやポップスのライブ配信では曲間のMC中だけ極端にレベルが小さくなって聞こえなかったり、セミナーでは、再生する動画の音声が小さかったり、大きすぎて歪んでいたり、等々、多くの場合、実際に配信する内容を確認さえしていれば、必ず気が付く内容ばかりであり、少し工夫するだけで、改善できるものがほとんどです。
偉そうなことを書きましたが、冒頭申し上げました通り、私もまだまだ配信に関しては新参者です。毎回少しでもよい配信ができるよう、日々精進しております。
長文を読んで頂きありがとうございました。